「おいしいものを提供すれば、きっとお客様は来てくれる」、「長年の夢だから、情熱だけは誰にも負けない」。
そう信じて開業しても、飲食店の世界では越えられない壁があります。
飲食店をビジネスとして確立させるためには、料理や接客のスキルと情熱だけでは不十分です。
この記事では、自分の強みを細分化し、本当の「需要」を突き止めるための思考整理術を解説。
開業前にこそ知っておきたい、ビジネスとして勝てる飲食店をつくるための地図です。
専門家紹介
料飲専門家団体(FBO)SSI顧問/フードビジネスコーチ 鬼頭キヨシ氏
ソムリエなどの資格を有する、ビジネスコーチ、キャリアコンサルタント。キリンビール株式会社在籍。
目次
・飲食店を「体験する側」と「経営する側」では見える景色がまるで違う
・自分の「やりたいこと」と「売れること」は、必ずしも一致しない
飲食店を「体験する側」と「経営する側」では見える景色がまるで違う
「飲食店が大好き。だから、飲食店を開業したい」。
これは、飲食店を開業したい理由でよく聞く言葉です。
この言葉は、飲食店の利用経験から感じたものでしょう。
しかし、飲食店の利用経験である「行く」のと、飲食店を経営する「やる」のでは、全く異なるものなのです。
飲食店を開業したいと考える人の多くが、企業や店舗に所属して調理や接客のプロとして活躍していた経歴があるでしょう。
しかし、プレイヤーとして優秀であることと経営者として成功することは全くの別物です。
まず直面するのが、「労働環境の変化」です。組織に属していれば休日にも給与が保証されますが、独立すると自分が休むことは「売上の消失」を意味します。
自分の代わりがいない環境で最後までやり切れるかどうか、これが最初の分岐点といえます。
さらに経営者には、現場では経験し得なかった以下のような実務があります。
・資金調達: 事業計画の策定、融資を成立させるための交渉力
・物件選定: 周辺環境の調査、商圏特性の把握など
・設計・デザイン: 設備や店内環境、インテリア等の判断
店舗スタッフ時代からの延長ではなく、「全く新しいビジネスを始める」という意識の切り替えが必要不可欠です。
自分の「やりたいこと」と「売れること」は、必ずしも一致しない
多くの開業希望者は自身のスキルに誇りを持ち、「自分がおいしいと思う料理」、「自分が理想とする接客」は多くの人に支持されると考えがちです。
この「プロダクトアウト」の考えに固執してしまうと、ビジネスとして成立しないケースもあります。
自分のこだわりを通すのであれば「趣味」の領域として、友人を招いたホームパーティーであれば賞賛されるでしょう。
しかし、対価をいただく「商売」である以上、主役は常に顧客です。
お客様のニーズをどう満たすかという「マーケットイン」の発想も併せ持ちながら運営できるかどうかが成功の鍵となります。
専門家からのアドバイス
鬼頭氏: 「自分が何を作りたいか」=プロダクトアウトだけではなく、「お客様がなぜその店を選ぶのか」=マーケットインの発想、その両面を持ってください。
誰が、どんなシーンで、何を求めて来店するのか、その利用動機をどう満たすのかを考えること。
この客観性があってこそ「商い」へと昇華します。
やり抜く覚悟ができたら「やりたいこと」を因数分解する
経営者としての覚悟と意識の転換ができたら、取り組むべきは「自分のやりたいこと」の細分化です。
情熱的な「やりたい」を、持続可能なビジネスへと落とし込むためのステップを整理してみましょう。
\STEP 1/自身の「強み」を言語化する
まずは、これまでのキャリアで培った技術や特性を客観的に書き出してみること。
「料理」と「接客」の2つの軸で考えていきます。
料理の専門性: 調理技術力、料理ジャンルの専門性、食材調達力など
接客スタイル: 接客技術力、ワインやコーヒーなどの専門知識、商材調達力など
さらに強みをもう一段階深堀りしてみましょう。
例えば、高級レストランでの現場経験があった場合を考えてみます。
その経験をフルに生かし、同じような高級レストランを開業したいのか。
それとも、習得した技術を生かし、気軽に来店できるカジュアル価格帯の居酒屋に挑戦したいのか。
ソムリエの資格を持っている方であれば、ワインが主体となる専門性の高いバー業態がやりたいのか。
それとも、プロが目利きしたおいしいワインが気軽に楽しめる居酒屋的な業態を作りたいのか。
自身の強みを活かして何をやりたいのかを考えると良いでしょう。
自分のどのスキルが武器になるのかを言語化することが、コンセプト設計の精度を高める第一歩です。
自分では見えにくい部分でもありますので、第三者に聞いてみることも有効です。
独立後に不得意なことを克服する余裕はありませんし、休みなく継続するために支えてくれるのは「自分が得意なこと」だけです。
プロダクトアウトの「核」を、誰にでも伝わる言葉で定義することがスタートラインとなります。
\STEP 2/「客層」と「利用動機」から探すべき物件を導く
自分の強みが明確になれば、それを支持してくれるであろう「ターゲット」と、その「利用動機」が必然的に見えてきます。
この要素が固まると、探すべき物件や立地条件が絞り込まれていきます。
これがマーケットインの発想です。
例えば、商品の価格帯から利用動機と客層を考えてみると、物件までが以下のように整理されていきます。
予約をしてわざわざ足を運ぶ「目的型」の店であれば、家賃の高い路面店や駅から至近である必要はありません。
逆に、ふらっと入る気軽さが売りの「最寄型」の店なら1階の路面店であることは必須条件です。
このように、客層と利用動機から、物件や立地などいくつかの要素をバランス良く整えることが重要です。
「低価格の居酒屋なのに接客が丁寧すぎて居心地が良くない」、「高級店なのに雰囲気がカジュアルすぎる」といった不整合さがあると、お客様の離反を招くことにつながります。
飲食店を成功へと導くカギは、さまざまな要素の「バランス」なのです。
専門家からのアドバイス
鬼頭氏: コンセプトを設計する際、開業希望者の多くが「どんな料理をやりたいか」から考えはじめますが、大切なのは「客層」と「利用動機」です。
「中華の店にいたから中華で独立したい」というだけでは不十分。
ターゲットと利用動機を考えたうえで、さらに物件や店舗デザイン、サービスなどをイメージしましょう。
成功店へと導くためには多角的な視点で「バランス」を整える
経営者としての覚悟が整い、やりたいことの因数分解ができれば、理想の店を形にする道はおのずと見えてきます。
そして成功店へ導くために必要な多角的な視点での「バランス」を整えるために、自店のコンセプトをたったの紙1枚で可視化する方法があります。
関連記事でお伝えしていますので、コンセプト設計を進めていきましょう。
>関連記事はこちら
【会員限定】方向性が見えてくる!紙1枚のフレームワーク。専門家直伝「業態バランスシート」を作ってみよう
専門家プロフィール
料飲専門家団体(FBO)SSI顧問/フードビジネスコーチ 鬼頭キヨシ氏

ソムリエ、利酒師などの資格を有する、ビジネスコーチ、キャリアコンサルタント。
キリンビール株式会社在籍。年間約500店の飲食店をまわり、繁盛の秘けつを伝える外食コンサルタントとして活躍。





