飲食店を開業する際、最も大きな壁となるのが「物件探し」です。
「条件に合う物件が全然ない」、「気になる物件はすぐ埋まってしまう」という課題に多くの方が直面しますが、その根本的な原因は、圧倒的な「情報不足」と「理想と現実の乖離」にあります。
理想の物件を手に入れるために知っておくべき店舗物件市場の裏側と、失敗しないための判断基準を探ります。
専門家紹介
株式会社ナカセ代表取締役CEO 中瀬一人氏
外食企業の店舗開発役員として上場を実現した経験から、現在は外食出店の専門家として活躍中。
目次
・あなたが見ているのは市場のたった一握り?物件情報は時間と労力をかけて収集
・「居抜き物件」に潜む“ワナ”にかからないために専門業者と相談を
あなたが見ているのは市場のたった一握り?物件情報は時間と労力をかけて収集
現代はネット上に物件情報があふれており、一見すると誰でも手軽に探せる時代のように思えます。
しかし実際のところ、ネット上に公開されている情報は市場全体の50〜60%ほどで、無料で閲覧できる情報はわずか20〜30%程度に過ぎません。
店舗物件は居住用物件とは異なり、流通構造が想像以上に複雑なのです。
大手の外食事業者が、高い人件費を払ってまで「店舗開発」という専門職を置くのは、店舗物件は住宅と違い、収益物件・投資物件に近い性質を持っているから。
コストをかけなければ価値ある物件情報にたどり着けないことを熟知しているからです。
そのため、個人開業であっても、希望のエリアへ自ら足を運び、時間をかけ、プロのネットワークに食い込むような「情報を取りに行く姿勢」が、物件獲得の成功確率を大きく左右するといえるでしょう。
「自分ならやれる!」という過信が招く失敗のメカニズム
出店までの時間が迫り、人も雇ってしまったし、銀行からも状況を聞かれる……。
物件探しが長引くと、焦りから冷静な判断ができなくなるケースが多々あります。
ここで陥りやすいのが「判断軸のブレ」です。
当初は「ここでやりたい」という理想があったはずが、次第に「ここでもやれる」、「ここならやれる」と意識が移ろい、最終的には「頑張ればやれる気がする!」と、本来は妥協すべきではないポイントを無視して契約してしまう人が多くみられます。
この「過信」による失敗を防ぐためには、以下の準備が不可欠です。
物件探しは単なる「場所選び」ではありません。
自分が住まいを探す時にも譲れない条件があるのと同様に、ここなら利益を出せるという経営視点での「投資判断」が必要です。
長く愛される店づくりは、時間をかけて自らの手で物件情報を掴み取ることからといえるでしょう。
専門家からのアドバイス
中瀬氏: 「駅近」、「安価」、「好立地」の店舗物件を探し続けるのは、“幻のツチノコ”を追うようなものです。
理想とする条件が市場に実在するのか、まずは疑ってみてください。
自身の夢と、予算や立地の現実を冷静に結びつけ、地に足がついた判断軸を持つこと。それが本物の繁盛店への第一歩となります。
物件選定を大きく左右する「3つの柱」を明確に
実際に物件を探し始める前に、方向性を定めておくべきポイントを整理しましょう。
以下の3つを中心に確認します。
1. 「エリアと客層」を明確に定める
物件選びにおいてエリア選定は最大の重要指標です。
例えば同じ東京都内でもエリアが異なれば、求められる商売も180度異なります。
特定の駅や特定の町で、どのような客層が見込めるのかをイメージせずに「どこでもいいから条件に合う物件を」という姿勢では、軸のぶれた経営となることが目に見えています。
2. 理想型を描いたうえで「妥協点」を決める
まずは自分がベストだと考える「仮想店舗」を描きます。
そこから、何であれば妥協できるのかを優先順位を決めておきましょう。
妥協の判断には以下のような項目が考えられます。
・エリア: 最寄駅や駅からの距離など
・賃料: 予算をどこまで広げられるか
・フロア: 1階が必須か、地下や2階でも良いか
・地形: 間口の広さや敷地の形状など
・坪数: 最低限必要な席数の判断
経営者として「ここならお客様が喜んでくれる」という確信が持てるラインを、妥協の限界点として定めておくことが重要です。
例えば、駅から少し距離のある物件を選んだ場合、SNSや広告によって集客の可能性は高まりますが、業態によっては1階であることが絶対条件となる場合もあります。
物件選びでは優先順位の整理は必須です。
3. 居抜きかスケルトンかの判断
初期投資を抑えるために居抜きを選ぶのか、理想を追求するためにゼロから作るのか。
居抜きを選ぶ場合、特に気をつけるべきポイントは後述します。
「居抜き物件」に潜む“ワナ”にかからないために専門業者と相談を
居抜き物件は素人判断での契約は危険です。
その一例が造作代金です。
これは、居抜き物件において前テナントが設置した内装や設備を引き継ぐ際に支払う対価のこと。
たとえ造作代金が安価だったとしても、飲食店の設備は専門的なものが多く、また前業態が居酒屋だったからといって、次の居酒屋がそのまま営業できるとも限りません。
最悪の場合、泣く泣く業態を変更したり、多額の追加工事費がかかってしまい、結果的にスケルトンよりも高くつくケースも珍しくありません。
契約後に発覚しても手遅れです。
また、不動産業者は飲食経営の専門家ではないことも覚えておきましょう。
彼らが言う「いい物件」は、あくまで不動産としての評価。
店舗設備だけでなく飲食業の収支構造についても不動産屋はそこまで理解が深くないことがほとんどです。
特に居抜き物件の設備に関しては、必ず信頼できる専門業者とともに内覧して「本当に大丈夫ですよね?」と、不動産業者と専門業者の両方に自分の事業が実現できるのかをしっかりと確認したうえで判断しましょう。
信頼できる専門業者を見つけるため、慣れないうちは内装や施工のマッチングサイトといった第三者を介することをおすすめします。
実績のある業者に適正なコストを支払って依頼することが、結果的にトラブルを避ける近道です。決して費用の安さだけで選ばないよう留意しましょう。
専門家からのアドバイス
中瀬氏: 物件選びで絶対に注意してほしいのが定期借家契約(定借)。
飲食ビジネスは初期投資の回収に最低5年はかかるものです。
そのため3年以内の定借は、利益が出る前に退去という恐れがあります。また、不動産屋の「再契約できます」という口約束を安易に信じるのは禁物。
定借の場合は再契約できる前提だとしても最低5年以上の期間があること、あるいは普通借家契約を基準に選びましょう。
その場に腰を据えて長く商売できるかどうかを考える
飲食店は「家賃がタダでも赤字になり得る」とも言われるほど厳しいものです。
物件は安さや手軽さだけで選ぶのではなく、その場所で5年、10年と腰を据えて商売ができるかどうか。
マイホームを買うときと同じような慎重さをもって選択してください。
物件探しの”落とし穴”はこれだけではありません。
関連記事でもじっくり解説しているので、ぜひお読みください。
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【会員限定】「物件は人」であると心得よ!プロが教える物件探しの”落とし穴”と優良物件への近道
専門家プロフィール
株式会社ナカセ代表取締役CEO 中瀬一人氏

上場外食企業で役員として100店舗出店、10年間赤字撤退ゼロを達成。また取締役CFOとして上場を指揮した経験から外食IPOと店舗開発について研究中。株式会社ナカセ代表取締役CEOのほか、株式会社FS.shake社外取締役、顧問多数。





